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読まれなかった小説の感想＆レビュー

1. 山田太郎

   2025年10月16日

   会話は相変わらず皮肉とユーモアが冴えていて楽しい。ただし今作は展開がほぼなく、主人公が若さの暴走を撒き散らしているだけで終わってしまい、少し退屈だった。とはいえ、主人公がダメ人間であることが監督の贖罪として機能する点は、ヌリ・ビルゲ・ジェイランらしい作風で良かった。とはいえ自分は『雪の轍』や『二つの季節しかない村』のような起伏のある展開の方が好みだ。最後の井戸のエピソードは要らなかった気がする。

2. 山下和雄

   2025年7月10日

   すごい映画に違いないと感じつつも、私にはそれを見抜く力がまだ足りなかった。長々と続く、青臭い若者の机上の空論を聞かされているようで、居心地の悪さがあった。でもラスト数分には、ささやかで不思議な盛り上がりが訪れ、ああ、これを感じるために今まで我慢して見てきたんだと胸が熱くなった。

3. 清水

   2025年7月8日

   近すぎて見えなかった父の愛。

   主人公シナンの鬱屈した感情は、二時間では到底詰め込めず、三時間を超える展開へと膨らむ。吐き出す場を探しては周囲との軋みを生み、特に父親に対しては嫌悪感を隠そうとしない。しかし、これはまさにシナン自身の私的処女小説であり、彼が知らなかった父の存在が、最後の瞬間に結末だけを書き換える。

   製作費は不明

4. 茶漬彦

   2025年6月11日

   父と息子の関係はぎくしゃくしている。主人公はムスリムのため、お父さんに強く言えないのだろうか。自身の生活もうまくいかず、家族や世の中に対して不満を抱えているため、いつも不機嫌そうだ。

   主人公のイライラする気持ちは理解できるが、伝統や習慣に染まった人々もいるため、一概には言えないかもしれない。ただ、最近のアラブ系映画では、イスラムの教えと新たな考え方との対立がよく描かれている。

   主人公と友人がイスラムの教えと世間とのギャップについて話す場面があり、非常に考えさせられた。自由意志が本当に自由とは限らず、服従が楽である人もいる。大衆を導くには厳しい手段も必要で、その結果、迫害が生まれることもある。世界が変わっていく中、私たちは取り残され、コーランは変化を否定する立場にあるとも言われている。

   無神論者の多い国では犯罪率が低いが、倫理と宗教には関係がないとも主張される。しかし、そういった国では自殺者が多いため、幸せとは限らないとも感じているようだ。信仰と真実が異なることについての考察が印象的だった。

   セリフが多く、字幕を読むのが大変だったが、全体としてとても面白く、長さを感じさせない作品だった。

5. 伊藤直

   2025年6月11日

   新卒の男子とその家族は、どこにでもいるような存在だ。権威を悪と見なし、懐疑的な姿勢を持つ彼は、自分も若い頃に似たような態度だった。しかし、議論をふっかけて鼻で笑う相手は目上の権力者たちであり、彼の勇気は立派だ。よく聞いてみると、大人の方が自論や態度に問題を抱えていることが多い。先に馬鹿にしたり、先に怒り出すのは大人たちだ。シナンに対して、視聴者は「無名の者が持つ懐疑的な意見は間違いだ」という先入観を抱いている。そうした人々は、彼の言葉を理解することもなく批判を繰り返す。たとえ読んでも、シナンの言うように偏見がある人は内容を捉えられない。導師も「有名な人の発言だけを聞けば良い」と語り、そこにも脚本の意図が見え隠れする。作家との二度目のバトルを見れば、シナンの方が冷静で礼儀正しさを感じさせる。彼はさまざまな問題を真剣に考え、忖度せずに意見を述べている。若さゆえに、こうした正直な姿勢を否定されてしまうのは残念だ。しかし、彼は両親や祖父母には思いやりを見せている。逆にその態度がないと、彼はただのクズになってしまうだろう。シナンは健全な青年だ。作家も社長も、この若者に対して本気で怒るほど、彼の存在が彼らにとって鋭いところを突いているのだ。シナンは自費出版の資金を持ちかけるなど、大物としての資質も見せている。だが、純文学を志す彼は、盲目的に成功を求めているわけではない。複雑な葛藤を抱えつつも、人間の感情を理解し、軽蔑されがちな父親の生き方を敬う姿勢を持っているのだ。シナンは「不平を言わない老人こそ幸福の意味を知っており、彼を通して我々も救われる」と問いかけている。成功していても尊敬できない考えを持つ大人たちがいる一方で、真理を知っているのは貧しい父親だった。「楽しければどこでも生きていける」という言葉は、出来事を肯定的に捉え、今あるものを愛する重要性を示している。自分自身を認め、愛することが明るく幸せな生活をもたらす。自然や動物と触れ合い、その中で自給自足を目指すことが真の贅沢だと実感する。田舎育ちのシナンを羨ましく思う。最後の井戸に関するシーンは、カンヌ国際映画祭での評価も受けている。父親との不和についての思いを語る中で、彼の言葉には共感を覚える。両親への深い皮肉を込めた思いも理解できるし、口には出さない優しさも感じる。モラハラやDV、アルコール依存など、これをしていない夫はどれほど珍しいか、現実を痛感する。トルコの美しい風景は、古い美しさが感じられ、豊かさとして映る。スマホやPCがなければ、まるで時代も違うように感じられる。飲むミルクの入っていないチャイも印象的だ。公開直前に観賞したため、急ぎ足で見た部分もあったが、ゆっくりと最後のシーンを味わえたことが結果的に良かったのかもしれない。普通に観た方たち、お疲れ様でした。

6. 彩場翔人

   2025年6月9日

   衝撃的なネタバレタイトル。
   U-NEXTの説明文ですでにストーリーの結末まで知ることになってしまった。

   文学青年が抱える理想と現実の葛藤を描いた一般的なストーリーではあるが、その痛みをしっかりと表現している点が良かった。

7. しんのすけ

   2025年6月2日

   現代のトルコの若者の葛藤が、まるでそのまま映し出されたかのような物語だった。大学に進んでも就職口はなく、安い給料に対して物価と家賃は高い。自分ひとりで生計を立てられず、親の収入も決して豊かではない。社会全体、特に地方には宗教色が色濃く残り、窮屈な価値観と家族観の中で、高等教育を受けて外の世界を知ろうとする若者は苦悩している。優秀な若者は次々と海外へ脱出していく。作中に登場するチャナッカレ（トロイの木馬の町）にも二度訪れ、チャナッカレ大学にも行ったことがあるが、あの街は小さくて、観光資源以外に何があるのだろうと感じた。友人は「この地の人はお土産屋か美容師、それくらいしかないよ」と言っていた。小説家が『普通の人生に色をつけて語るのが僕らの仕事だ』と語っていたのと同じ趣旨で、まさにこの映画はそんな作品だった。シナンの人生は、現実には何もないかのように見えるかもしれないが、見せ方次第でこうした映画にもなるのだと痛感した。途中、トルコ人男性がどれだけ長く話すのかと突っ込みたくなる場面もいくつかあり、これが国民性の表れなのだろうと、私自身もうちの国民性と重ねてしまった。シナンが自分の人生と親との関係を諦めず、前へと突き進む希望あるラストがとても良かった。あと、バッハの存在感も印象的だった。すべての人を受け入れる寛容さがあり、宗教が違ってもそれでいいんだと示してくれる姿勢には心を打たれた。

8. カワガラス

   2025年4月9日

   この作品は極めて深遠で、哲学的な高みへと重層的に物語を紡ぎ出します。『雪の轍』と比べて平坦で淡々とした構成が、この映画の魅力を際立たせています。とにかくよく歩く。街から村へ、山道や荒地を越えながら旅を続け、歩くたびに思考を深めていきます。カメラも移動を伴う追跡ショットで、それを視覚的に支えます。身近な人々との問答を重ね、運命の真理へと迫ろうとする主人公の姿が描かれます。掘っても水が出ない井戸。書いても誰も読むはずのない小説。運命を受け入れて、その先に希望はあるのかと問いかけます。

9. どりーん

   2025年3月23日

   読まれない小説を書かざるを得ない。
   水の出ない井戸を掘り続けなければならない。

10. 鬼雀

    2025年3月22日

    予想以上に長かったので驚きました
    長大なセリフのリズムには、アッバス・キアロスタミを彷彿とさせるものがあります。
    しかし、本当に長い！

    主人公は全てを否定的に捉え、どれだけ抵抗しても結局は変わらないジレンマに囚われています。父のギャンブル癖に対する不満を周囲にぶつけて、皆をイライラさせてしまう。
    でも、一番嫌いだった父親が

    最後は本当に驚かされた
    こんな形で見せるなんて、あまりにも抽象的で心をかき乱された