つねに「新しさ」と「驚き」を届けたい――名越稔洋取締役CPOに聞く、新CIに込められたメッセージ「SEGA×JAPANMATE セガ新CIスペシャルインタビュー拡大版」

ジャパニメイト最新号に掲載されている、セガグループの開発を統括する名越稔洋氏によるセガ新CI(コーポレート・アイデンティティ)インタビュー。
本紙では載せきれなかった部分を追加した拡大版をお届けしよう。
 

 
見えない、聞こえない部分にこそ
大切なメッセージが潜んでいる

 
池澤 このタイミングで外に向けて新しいCIを打ち出した狙いは?
名越 僕らはイメージを売っているわけではなくて、あくまで商品を売っている。それを売るうえで、商品が作られる過程で生まれた思いとか前提の理念みたいなものをより深く伝えるためにCIがあった方が商品に対する理解を深めてもらえると考えたからです。それをどこまで深く考えるかというのは企業によって違うと思うし、セガの場合、今回は重く大きく捉えてそれを作ったということです。
池澤 外に向けて思いを伝えるのと同時に、社内の方たちがセガとはどういうものかをもう1回考え直すきっかけにもなったのかなと思うのですが。
名越 社員の全員に聞いたわけではないですけど、そうなればいいとは思っていますね。
池澤 新CIでは目の動きを音に転化するという、すごい技術を使われていますよね。こういったアイデアは、当初からあったんでしょうか。
 
名越 単純に誰かが思いついた絵柄を動きやアニメーションに乗っけて、みたいな平凡なもので終わらせるのは嫌だなというのがあって。アイデアはいくつかあったんですが、その中で目の動きをトラッキングして、その動きを波形データとして下敷きに使って、音が出て……というのはもっとも新鮮に見えたので、これが面白いんじゃないかなと。その波形はセガの製品を遊んでいる子どもの目からとっているわけだから、僕らが生んだとも言えるし、ユーザーが生んだとも言える。ユーザーからの発信という点があったり、メーカーとユーザー双方の共有感が発生したりすることも新しいし、良い取り組みになりました。
池澤 一方通行ではないユーザーとメーカーの対話みたいなものが、ほんの0.何秒の中に込められているということですね。
名越 はい。そうです。
池澤 ムービーのメイキングを見ていても技術がすごすぎて理解しきれないところもあるんですが……。今回使っているデバイスはそもそも何をするためのものなんですか?
名越 データトラッキングをするものを改良しているので、何をと言われるとけっこう味気ない話になってしまいますが(笑)。どちらかというと工業製品の実験とかの過程で使うようなもので、作品を作るようなものではないのは確かだった。ツールというよりは道具として、本来の使い方とはあえて違うところに目的を置いて使ったというユニークさはあると思いますね。
池澤 出来上がった新CIはいかがですか。
名越 目はいろんな世代のいろんな人種の人を撮って、最終的には男の子にしたんですけど。
池澤 青い目の男の子ですね。
名越 そうです。青い目の方が虹彩の動きとか黒目の動きが見やすいので。そこにセガロゴを入れた時のシンクロするイメージとか、いろいろ試してみて、最終的にはスマートなビジュアルになったかなと思います。
 
池澤 かなり試行錯誤があったかと思いますが、制作にはどれくらいかかりました?
名越 制作がスタートして、約1年くらいだったと思います。僕が関わってからも半年以上はかかっています。その前の段階では、さまざまな取捨選択で、かなり議論があったと聞いています。
池澤 いろんな人がいろんなアプローチをして出てきたものをジャッジしてまとめていかれる立場だったと思うんですけど、どのくらいの段階から「ここに到達したい」というのが見えていたんでしょうか。
名越 ちゃんと理屈があれば僕は既成概念にとらわれないところもあって。たとえばセガロゴの見え方。普通はCIって必ずロゴが正面に正対するんですけど、今回は正対してないんですよね。しなくてもたぶん、ほとんどの人は「あれはセガロゴなんだ」ってわかるくらいの認知はある。だから、あえて認知を得ているという余裕をもって、見せ方のほうにアイデアを割いたほうがいいでしょうと。
池澤 それもイメージや思いが基盤にあるからこそ……。
名越 そこはずっと培ってきた時間の問題というか、30年以上あのロゴでやってきてますから。もちろんロゴを変えようっていう議論も以前にはあったわけですけど、ずっと使ってきたものを捨てる勇気っていうのはなかなかなくて。セガロゴが新しいのか古いのか、かっこいいのかダサいのか、というのは人それぞれの見方もある。ただ、変えないこともひとつの価値だと思うので、100年後には僕は生きてないけど、ひょっとしたらあのロゴだけは変わらないのかもしれませんね。
池澤 昔からセガロゴを見てきた人がパッとわかるように、これから新しいCIを見る人にとっては、あの鮮烈な目や音のイメージが刷り込まれていくのかもしれませんね。
名越 極端な言い方かもしれないですけど、ずっと未来まで持つCIを作る気は僕にはなくて、今からしばらくの間に使えるものであればそれでいいと思っているんですよ。技術も変わるし人の興味も変わる、価値観も変わるなかで、たぶんまたCIを変えなきゃいけない日が来る。現に昔のものが今使えていないということは、何かの変化があったから使えていないわけで。同じ理屈で、またどこかのタイミングで使えなくなる時が来るまで持ってくれれば僕はいいと思う。今そして当面のセガにとってふさわしいものであれば、そこを完成として良しだろう、そういう気持ちもありつつ取り組みました。
 

池澤 新しいCIやキーワードが、今後のゲームやサービスに影響を与える部分もあるのでしょうか。
名越 ユーザーに対しても社員に対しても、それを押し付けたくはないんですよ。むしろ見える、聞こえる部分以外の可視化できないところに潜んでいるメッセージのほうが大事で、そこに感じるところは人それぞれ違うと思います。ただ、「うちの会社っていろんなことをするよね」「ずいぶん変わったことをやるよね」と感じるだけでもそれはひとつのメッセージになるわけで、そういう会社に勤めている自分も平凡な考えではいけないんだ、みたいなところは伝わってほしいですね。ユーザーに対しても、「変わったことをやる」「挑戦的なことをする」というメッセージがこもった商品をこれから出してくれるんだろうという期待に繋がってほしいです。
池澤 セガのCIが「Amazing SEGA」であれば、名越さんご自身のパーソナル・アイデンティティ、PIは何でしょう。
名越 うーん、何でしょうね。僕はこの会社に入って、商品の新しさやサムシング・ニューと感じる部分はどこなのかというのを、先輩や上司からうんざりするくらい問われたわけですが、それに対する回答がなかなかできなくて。ただ、働いているうちに、僕はそれが「驚くもの」なのかなと思うようになりました。
池澤 新CIのムービーにも「これまでにない驚きを、もっと」というフレーズが出てきましたね。
名越 まあ、プロとして考えたら「求められる新しさ」ということですよね。新しくてもいらないよと言われるものは出してもしょうがないし、古いなんていうのはもう論外。新しくて待ちに待っていたと言わしめるもの、そしてその待ちに待っていたものが出来上がった喜び、驚きっていうものが混然となった商品を作る……というのが僕のアイデンティティですね。驚く、びっくりすることは、あとで喜びとか嬉しさとかに必ず繋がるものだと思っているし、そういうものをこれからも目指していきたいと思っています。
 
龍が如くスタジオの新作に託した
セガの意志、『龍が如く』のこれから

 
池澤 先月、龍が如くスタジオの新作が3タイトル発表されました。それぞれセガの「こういうものを作っていこう」という意志が表れたものだと思いますが、どういう思い、どういうコンセプトで始められたんでしょうか。まずは『龍が如く 極2』からうかがえれば。
名越 10年以上前に発売した第1作『龍が如く』を最新の技術でさまざまな要素を追加した『龍が如く 極』(2016年1月発売)の評判が良かったので、当然『龍が如く2』も『極』をという声が高まってきて、やっぱりやるべきだし、やるならいちばん新しいゲームエンジンでやろうと立ち上げたのが『極2』です。『龍が如く2』は、10年前にベストを尽くした作品ですけど、今見ると演出の甘さとかゲームとしての完成度の低さとか、稚拙な部分も見受けられた。じゃあ、10数年分の成長が自分らにもあるわけなので、その心残りな部分を全部つぶしていこうと。10年前の美化された記憶をさらに上回るようなものを作る、というのが第一かなと思います。
 
池澤 『龍が如く ONLINE』についてはいかがでしょう。
名越 桐生一馬の物語は『龍が如く6 命の詩。』(2016年12月発売)で終わったんですけど、『龍が如く』シリーズが終わってしまったわけではない。その次に来るものとして「新・龍が如くプロジェクト」というものがあり、その第1弾となるのが『龍が如く ONLINE』です。プラットフォームはスマートフォン・PCとなりますが、その先には家庭用ゲーム機向けも考えており、その両方で主人公となるのが「春日一番」という男。彼は桐生と比べたら何も持っていない、それこそ「一番」という名に「名前負け」しているんですが、そんな男の成り上がりストーリーを描く作品になっています。
 
池澤 もうひとつ、『北斗が如く』のコラボレーションは衝撃的でした。
名越 『龍が如く』シリーズはセガの中でもトップクラスの技術者が手掛けているので、そのリソースを『龍が如く』というIPのみで使っていくというのは会社の効率としてはあまり良くない。じゃあ横展開として他のIPで広げていこうと考えたとき、やっぱり驚きのある取り組みをやりたかった。そこで出てきたのが、世界観や設定もマッチする『北斗の拳』だったんです。ただ、僕らが手がけるからには「龍が如くスタジオ」らしい仕掛けも盛り込みたかったので、原作者の原哲夫先生ともしっかり話をしていろいろなことを決めていったんです。結果、街遊びやボイスキャスト、楽曲など多くの部分で、2つのIPが一緒になった座組みをアピールできる作品になりました。
 
池澤 最後に、本紙読者とセガファン、『龍が如く』ファンにメッセージをお願いします。
名越 新CIに込めたメッセージの「驚き」や「挑戦」を具現化するタイトルの一例として、今回3タイトルの発表を行いました。『龍が如く』というIPがまた新しい10年を迎えるにふさわしい幕開けとなるように頑張っております。また、今回の『北斗が如く』のように、セガプロデュースの予測できないような取り組みを発表していく予定もあります。気がついた時にでもいいので、「最近はどんなことやってるのかな」とセガのサイトを見に来ていただければそれだけで幸せです。
 

セガ新CI ブランディングムービーYouTubeにてムービー公開中!

 
株式会社セガゲームス 取締役CPO兼エンタテインメントコンテンツ統括本部統括本部長
株式会社セガ・インタラクティブ 取締役CPO兼開発生産統括本部統括本部長
名越 稔洋(なごし・としひろ)
 

「龍が如くスタジオ」を率い、『龍が如く』シリーズ総合監督を務める。本シリーズを始めとするゲームのほか、映画、漫画のプロデュースも手掛けるマルチクリエイター。
 
声優・アーティスト・文筆家
池澤 春菜(いけざわ・はるな)
 

アニメ、ゲーム、洋画の吹き替え、ナレーションなど、幅広いジャンルで活躍中。文筆家としても知られ、エッセイ『SF のSは、ステキのS』では2017年星雲賞ノンフィクション部門を受賞した。
 
 
《驚きと挑戦が詰まった龍が如くスタジオの最新作!》
 
「龍が如く 極2」

『龍が如く』シリーズの中でも屈指の人気を誇るタイトルを、ドラゴンエンジンによって“極”クオリティに昇華。
“堂島の龍”と呼ばれる伝説の男・桐生一馬と、“関西の龍”と呼ばれる郷田龍司を中心に男たちの熱いドラマを描く。
 
●対応機種:PS4
●ジャンル:アクションアドベンチャー
●発売日:2017年12 月7日予定
●プレイ人数:1人
●価格:通常版 7,590円(税別)/ 限定版の極み 11,590円(税別)
http://ryu-ga-gotoku.com/kiwami2/
 
「龍が如く ONLINE」

桐生一馬という伝説が消えた後の神室町に戻ってきた、元極道の男・春日一番。
警察と近江連合の共謀により、かつての熱を失った街で、仲間と力を合わせて巨大勢力に立ち向かっていく。
どん底で生まれ育った新たな主人公の最後の戦いを描く、『龍が如く』流のサクセスストーリー。
 
●対応機種:iOS/Android /PC
●サービス開始日:2018年予定
●価格:基本プレイ無料(アイテム課金あり)
●ジャンル:ドラマティック抗争RPG
●プレイ人数:1 人~
●公式Web サイト:https://ryu-ga-gotoku-online.jp
●ポータルサイト:https://ryu-ga-gotoku.com/
 
「北斗が如く」

人気漫画『北斗の拳』が、龍が如くスタジオの手により初のアクションアドベンチャーゲームとして登場。
桐生一馬役でおなじみの黒田祟矢がケンシロウを演じるほか、『龍が如く』シリーズの歴代キャストが多数出演する。
●PS4
●ジャンル:アクションアドベンチャー
●発売日:2018 年2 月22 日予定
●プレイ人数:1人
●価格:通常版 8,390円(税別)/ 限定版 11,390円(税別)
●公式Web サイト:https://ryu-ga-gotoku.com/hokuto-ga-gotoku/
●ポータルサイト:https://ryu-ga-gotoku.com/
 
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